○国内数箇所で開催されているLGBT映画祭。今は非営利団体がボランティアで運営していますが、これを何とかビジネスにできないか、ということで、検討してみます。
○国内のLGBT映画祭で、ホームページ上で収支を公表している関西、香川、青森のデータをまず拾ってみました。東京の映画祭のデータはないのですが、収支がトントン状態であると聞いている&関西のデータと会場のスパイラルホールのレンタル費を参考に予想してみると大体の予算規模は8百万から1千万円レベルなのかな、と。

国内の映画祭のデータを集計してみて、アメリカ最大のボランティアベースのLGBT映画祭であるサンフランシスコのFrameline映画祭と比較するとこんな感じです。(Frameline映画祭は、パーティなどの関連イベントも多く、それもプログラムとして数えています。)

○映画祭の収支の特徴
・演劇等の興行ビジネスにも共通しますが、当日にならないとどれだけ客席が埋まるか分からない(売上のほとんどを占めるチケット売上が分からない)、という怖さがあります。前売り券の売上や、前年実績からある程度の予測はつきますが、必ずしも期待通りにはいきません。
・客席数に限りがあることから、チケット売上の上限は自ずと決まってしまいます。広い会場を借りようと思えば、今度は会場費が高くつきます。(映画館以外の会場の場合は、映写機材のレンタル費も必要になったりします)
・映画、特にインディペンデント作品は、定価、というものがありません。交渉次第で高くも安くもなります。監督やその代理人との交渉になりますが、ほとんどの国からみれば日本は豊かな国。最初は高くふっかけらることが多いのではないかと思います。しかし、監督にとって上映料以外のメリットがあれば(例えば自分の作品や名前を知って欲しいとか、賞をとればハクがつくとか、日本への渡航費が出るとか)上映料がタダになることもありえます。
・日本の映画祭のスタッフは、すべてボランティアです。スタッフが5名から20名、当日ボランティアが20名から100名体制だと思います。映画祭で一番手間のかかる日本語・英語字幕の作成作業も、全てボランティアでまかなっています。ボランティアでここまでの映画祭を作り上げていることは、本当にスゴイことだと思います。(サンフランシスコの映画祭は、専任のスタッフを数名雇っています。)
○そもそもLGBT映画祭の目的とは?
・一般的には・・・日本でなかなか公開されないLGBTがテーマの作品を集めて、まとめて上映する>LGBT当事者が作品に共感できる、非当事者が映画を通じてLGBTの抱える問題に気付くきっかけになる
・映像制作者にとっては・・・LGBTをテーマにした映像作品の発表の場をつくり、よりLGBTフレンドリーな映像作品をつくる動機付けになる(作品公募、表彰など)
・スタッフにとっては・・・プログラム選定作業などを通じて多くの映画を観ることができ、共通の話題を持った友達ができ(バーやクラブなどの夜の場とは違う出会いがある)、観客に感謝される
○映画祭の「成功」のファクターは?
・望ましいサイクル: 良質なプログラムを集める>観客の満足度UP>口コミが広がり、リピーター率も上昇(アンケート結果によれば、「友人等からの口コミ」が最大の広報)>動員数がUP>収支がプラスになる>さらに良質なプログラムも提供可能になる、継続的な映画祭の開催が可能になる
・このサイクルを回していくために、管理可能なポイントは、「プログラムの質」と「動員数」かと思いますが、どんな映像作品が良質かは人によって評価基準が違うことと、動員数はプログラムのよしあしでは決まらない(チケット購入を動機付けるだけの広報が必要)ことに注意が必要です。
・しかし、多くの人ががっかりするようなプログラムでは、観客の満足度は下がり、悪い口コミが広がり、結果的に次回の動員数減になってしまいます。また、動員数だけが映画祭の目的ではないという意見もあるでしょうが、動員数が減って赤字になるようでは、ボランティアで参加しているスタッフの士気が落ち、一人あたりの負担が増え、映画祭自体の継続が危うくなります。やはり、「プログラムの質」と「動員数」が管理ポイントではないでしょうか?
○「プログラムの質」を上げるためにできること
・日本の映画祭は7月から秋にかけての開催がほとんどですが、国際的にはそれに先立つ6月がLGBTプライド月間で、世界各地で映画祭が行われています。その数、150以上だそうです。それぞれの映画祭では、上映決定に先だってプログラミング担当スタッフが試写を行い、映画を評価しています。つまり、世界各地で上映されているような作品であれば、多くの人の目に触れているわけですので、一定の質が担保できると考えられます。ほとんどの映画祭はWEBでプログラムを公開しているので、ここから選ぶのはコストもかからず、確実性が高いと思われます。(もちろん、各映画祭でもすでに取り組んでいるでしょう)
・予算が許せば、海外の大規模な映画祭にスタッフが参加して、プログラミング担当者とアポを取り、おススメ作品・監督を紹介してもらう、というのが、人脈作りにもなるので最良の手段かもしれません。海外では諸事情で上映できなかったが、日本でならOKという作品もあり得ます。人脈があれば、作品の価格交渉で断然有利です。(青森の映画祭では、ディレクターの方がアメリカに滞在してLGBT関連の人脈を作っており、それが5万円という予算規模であれだけのプログラムが組める要因ではないかと思います)
・様々な作品を観て目が肥えているという意味では、海外の映画祭に参加している日本の映画配給会社の担当者や、映画研究者でLGBT関連の作品に興味を持っている人にアドバイスを依頼するのもいいかと思います。
・映画制作には、通常、かなりの資金が必要です。現在は、東京と関西で完成した作品を公募する試みは行っていますが、これは制作者側には結構なリスクで、せっかくお金をかけて制作しても、上映されないかもしれないのです。良質な日本作品の制作を支援するという意味では、この前段階、つまりシナリオ・コンクールのような形で応募の間口を広げて、その中からいいシナリオの映像化に賞金等で助成する、という形もアリではないかと思います。
○「動員数」を上げる、THINK BIG!(夢は大きく!)
・まず目標を決める必要があります。サンフランシスコの映画祭には7万人が集まります。サンフランシスコ市の人口は約80万人、カリフォルニア州の人口は3717万人です。(アメリカには他にも様々なLGBT映画祭やイベント、専用のTVチャネルまでありますので、競争環境は日本より厳しいはずです。)東京圏(東京とその周囲の都市)の人口は3460万人、大阪圏は2000万人。東京圏の人口とカリフォルニア州の人口が大体同じくらいです。日本ではアメリカよりLGBTとしてのライフスタイルを選んでいる人の割合が少ない&サンフランシスコには歴史的にLGBTが多く集まって住んでいる、ということで半分くらい割り引いて考えると、東京の映画祭で3万人、関西で1万人〜2万人がMAXの動員目標になるのではないでしょうか。東京の映画祭にとっては今の5倍の規模、関西の映画祭にとっては10倍くらいの規模です。回を重ねて少しずつ規模を拡大して行けば、決して不可能な数字ではないと思います。
・これだけの規模の映画祭になったら、どうなるでしょう?企業や自治体からの広告や助成が見込めます。マスコミによる広報も期待出来ます(口コミに頼っていては、万単位の集客は難しいでしょう)。予算規模が増えれば、専任のプログラム担当者の雇用が確保でき、よりプログラムの質を向上させることができるかもしれません。特に人気のあったプログラムを、DVDやストリーミング配信して、収益源を多様化することもできるかもしれません。会場を増やしたり、より広い会場でゴージャスな映画祭ができるかもしれません。著名人をゲストに呼んで、会場の入り口でファッションチェック!なんていう海外の映画祭では定番の光景が見られるようになるかもしれません。
○収支報告書から見えるもの
・映画祭は開場してみないと売上が分からない、という特性があることから、映画祭の運営を継続する為には、まずは最低でも1回分の費用をまかなえるだけの自己資金を貯めておくことが財務上の基盤づくりの第一歩だと思います。各映画祭の収支から気付いたことを。(あくまで数字だけ見て言っていることですので、スタッフの皆さん、どうか参考程度に聞いてください。ボランティアでこれだけの映画祭を運営していることを、私は大いにリスペクトしています)
・東京の詳しい収支状況は分かりませんが、費用の半分が会場費に消えてしまうのはもったいない気がします。会場のスパイラルは、女性が働きやすい企業として有名なワコールが運営しています(最近は機能性スポーツ下着にも力を入れていますね)。6千人の集客力があれば、関西のように会場と共催の形にすることを交渉したり、別の会場を検討することも検討できるのではないでしょうか?会場費が半分になれば、一気に200万円のプラスが出る計算です。
・関西は繰越金が100万円ありますが、もう少しこれを増やせたらより安心かと思います。字幕の貸し出しも始めたようですが、どうせなら各地の映画祭(人権、女性、短編、アニメ、各国主催の映画祭等)に積極的に売り込みをかけて、第2の収益源にしたいところです。(ただこの事業は手間がかかるわりには手数料は少ないので、後述のように、東京と集約した方が効果があると思います。)
・香川は収支とも、非常にバランスが良い印象です。昨年はスタッフが出資して財務基盤を強化したとのことですが、それを差し引いても単年度(1日)で10万円以上の積み増し。この調子で財務基盤を強化したいところですが、香川は会場がこれでほぼ満席。これ以上のチケット売上を上げるなら、プログラムを増やしたり、場所を広いところに変えたりという工夫が必要になってきます。
・青森は、20万円の予算規模でこれだけのことができる!ということを証明してくれたのが素晴らしいです。このパッケージなら、各都道府県庁所在地くらいの都市で開催できそうです。ただ、収入の100%がチケットでは財務上のリスクが大きいので、助成をとったり、各地で同じプログラムの映画祭の開催を支援することで手数料をとったりして、収益源を多様化したほうが安心かと思います。
○「日本LGBT映画祭サポートセンター」構想
・映画祭が今持っている最大の資産、それはボランティアの皆さんが作った日本語字幕と、プログラムチームの人脈だろうと思います。日本各地の映画祭の字幕とコンタクトリストを集約したら、それで1名〜2名くらいの雇用が期待できる「日本LGBT映画祭サポートセンター」が作れるのではないでしょうか?
・サポートセンターの業務: 字幕とコンタクトリストの管理、各地の映画祭(人権、女性、短編、アニメ、各国主催の映画祭等)へのプログラム提案、日本作品の海外LGBT映画祭への推薦、DVD化、書籍化、ストリーミング配信支援。つまり、海外LGBT映画の日本でのエージェント機能、日本LGBT映画の海外へのエージェント機能です。上映が決まったら、監督への支払い分+字幕権利者(各映画祭か字幕作成担当者)への支払い分+手数料を請求します。エージェント事業では利益になるのは手数料分のみですが、DVD化、書籍化できるものが増えれば、印税収入が増えて経営を安定化させられるのではないかと思います。
・人権や女性関係の映画祭は、各地の自治体で行われているので、一つ、いいプログラムを見つけたら、それを使い回せるため、さほど手間にはならないかと思います。また、教育の教材として使えそうなプログラムがあれば、それを各種学校に売り込むのもよいかと思います。現在、LGBTのことを教えたくても、先生達がどう教えたらいいのか分からない、という悩みがあるみたいですので、そこにハマる作品があれば、自治体がDVD化して配布してくれるかもしれません。
・これらの業務は、日本の各映画祭でやるには手間が大きく、手数料も少額なので、サポートセンターにまとめたほうが有効だと思います。各映画祭のプログラムを集約することで、それぞれの売り込み先に最適なプログラムを提供することもできますし、最終的には映画祭に副収入として還元することもできる、と。
■リンク集
東京国際レズビアン&ゲイ映画祭関西QueerFilmFestival香川レインボー映画祭青森インターナショナルLGBTフィルムフェスティバルframeline(サンフランシスコ国際LGBT映画祭)